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TEL's room.com

映画の感想、そして仕事を通じて感じる「組織」の異常さを自分なりの目線で書いていきます。

【映】All Is Lost 〜凄まじい「生きる」ことへの執念を感じる〜

映画感想

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はっきり言いますが、決して面白い映画ではありません。


ストーリーも皆無。主人公の乗っているヨットが危機的状況に陥り、如何にしてこの状況を抜け出し生存するか? これを淡々と描いた作品です。主人公にセリフなどほぼ無く登場人物も名前すら分からない彼1人だけ。舞台もヨットの上、救命ボートの上、そして広大な海の3つのみ。究極の一人芝居。本当の極限状態、危機的状況にはストーリーもシナリオもセリフも何も要らないのかもしれません。こういったものが無いためはっきり言って面白くはありません。でも、この映画から受けるすさまじい衝撃は映画史上に残ると確信できます。


人間は本気の危機的状況に陥ると、ただただパニックになって全てを放り投げてしまうか、それともいつも以上に冷静になり淡々とやるべきことをこなすか、の2択になるように思います。この主人公は後者。コンテナとの衝突によりヨットの側面に大きな穴が空いた時も、事実を確認し補修作業を黙々とこなしてなんとか航行できるようにしたり、ヨット内の生活スペースに大量の水が浸水してきても、ただ何の文句もヒステリックな叫び声も上げず地道に排水作業を行ったりと、常に冷静に行動している姿が変にリアルでした。


おそらく、様々なレビューや見終わった人の感想では「もっと焦るだろう」という類の意見があると思いますが、私はその意見には賛成できません。複数人で航海しているのであればそういうシーンもあってしかるべきだとは思いますが、この映画では名も無き主人公1人がありえない偶然の事故により生死を分ける危機的状況に陥るわけです。焦ったりパニックになっている暇はなく、それら激しい感情を通り越した何かしらの無の境地に辿り着き、絶望と希望しか無い必死の状態だったのではないかと思いました。だから焦ることもなく絶望に苛まれることもなく淡々と黙々と作業を繰り返し一縷の望みにかけて動いていたのではないかと感じるわけです。


この映画の中で最も記憶に残ったシーンは、沈没するぎりぎりの状態にあるヨットに救命ボートから戻り必要とされる物資を回収しもう一度救命ボートへ移るのですが、何か忘れた事に気づきもう一度ヨットへ戻るシーンです。不必要なシーンだとは思いますが、この主人公の動きは現実でもありえそうな雰囲気を醸し出してくれました。そして、沈没するヨットを静かに見守る主人公。「ALL IS LOST」。すべてを失った物悲しさを表情だけで語る最も素晴らしい演技だったと感じました。


似たような映画で「ゼログラビティ」という宇宙空間に1人放り出されてしまう主人公たちが何とかして地球へ帰還する、という映画がありましたが、「ALL IS LOST」はもしかしたら自分もこんな状況に陥るかもしれないという怖さをリアルに感じることができる分凄まじい衝撃と感動を感じることが出来ました。


しかし、自信を持って多くの人に勧めたいか、と言われれば躊躇してしまう映画です。万人に受ける映画ではありません。アクションもなければ感動するシーンもなく愛も裏切りも無い映画だったと感じています。でも、激しく感動できます。映画でここまで凄まじい衝撃を受けたことも無ければ恐怖を感じたこともありません。


だからこそ、もし見に行こうと考えておられるのであれば、名も無きすべてを失った主人公の「生きる」ことへの凄まじく激しい静かな執念を感じ取ってみてください。感動するシーンは全くありません。しかし、こういう主人公の姿勢を全身で感じることができればこれまで感じたことがないほど強い感動を受けると思います。


そして最後のシーン。何度も自然の猛威に助けられ、裏切られすべてを諦めた主人公にどんな運命が待っているのか。ここでは語りませんが、この映画のラストシーンとして最高の結末を演出していたのではないでしょうか。


色々と長々書いてきましたが、ものすごい映画だと思います。勧めませんし無理に見に行くような映画でもありません。でも、これまでに無いすごい映画です。よろしければご覧になってみてください。


※乗り物酔いし易い人は、結構気持ち悪くなると思います。
※エンドロールの「CAST」に1人しかクレジットされていない映画は初めて見ました。